春…「春苑(はるのその) 紅尓保布(くれないにほふ) 桃花(もものはな) 下照道尓(したでるみちに) 出立※嬬(いでたつおとめ)」※は女偏に感 大伴家持作
夏…「春過而(はるすぎて) 夏来良之(なつきたるらし) 白妙能(しろたえの) 衣乾有(ころもほしたり) 天之香具山(あめのがぐやま・あまのかぐやま)」 持統天皇作
秋…「秋野尓(あきののに) 開流秋芽子(さけるあきはぎ) 秋風尓(あきかぜに) 靡流上尓(なびけるうへに) 秋露置有(あきのつゆおけり)」 大伴家持作
冬…「東野炎(ひむがしののにかぎろいの) 立所見而(たつみえて) 反見為者(かえりみすれば) 月西渡(つきかたぶきぬ)」 柿本人麻呂作
「万葉の四季」は、古典「万葉集」をベースに楷書・行書・草書・仮名を書き分けた作品。春夏秋冬の順になっている。
回答プロセス:1.お客様持参の作品集『柿沼康二 書』より、「万葉の四季」を見るが、漢文やくずし字で書かれているため読めない。お客様が読めるようだったので、わかる部分から探してみる。
2.まず春は楷書ですぐに読めるので、『万葉集釈注 各句人名索引篇』各句索引で調べる。「はるのその」で始まる和歌は一首のみ。『万葉集釈注 原文篇』p537の和歌を見ると、作品と同じものだったので、この和歌だと分かる。
3.夏についても同様にお客様に句を読んでもらい、各句索引より『万葉集釈注 原文篇』p60の和歌だと分かった。
4.秋は草書で書かれているため、読めない部分が多数あったが、書き出しの「あきのの」と途中の「あきかぜ」が分かったので、『万葉集釈注 各句人名索引篇』各句索引で「あきのの」を調べてみる。「あきののうへの」から始まるものが2首、「あきののに」が5首、「あきののの」が4首、「あきののはぎや」が1首、「あきののを」が2首。これらを全部見てみると、途中に「あきかぜ」と入るものは『万葉集釈注 原文篇』p264の「秋野尓(あきののに) 開流秋芽子(さけるあきはぎ) 秋風尓(あきかぜに) 靡流上尓(なびけるうへに) 秋露置有(あきのつゆおけり)」の一首のみだった。こちらを見てもらい、作品集と比べてもらうと、同じ和歌のようだった。
5.冬についてはくずし仮名で書かれており、お客様もほとんど読めないものだった。「みすれば」「ふきぬ」「ののに」の三か所しか読めず、索引を引けそうもない。
6.インターネットで「万葉集 みすれば ふきぬ」で検索。多数ヒットした中の、「大阪府吹田図書館メールマガジンVOL.43 2009.4.25号」に柿本人麻呂の「ひむがしの のにかぎろひの たつみえて かへりみすれば つきかたぶきぬ」という和歌が紹介されていた。「みすれば」「ふきぬ」「ののに」という部分もすべて含まれている。
7.『万葉集釈注 原文篇』p63を見ると、「東野炎 立所見而 反見為者 月西渡(ヒムガシノノニハカギロヒ タツミエテ カヘリミスレバ ツキニシワタル)」とあり、読みが異なっていた。『万葉集注釈 巻第1』で確認してみると、p324~「ひむかしの野にかぎろひの立つ見えてかへりみすれば月かたぶきぬ」と書かれている。底本を何にするかで読みが異なるようである。
8.こちら2冊をお客様に提示したところ、「みすれば」「ふきぬ」が含まれている部分は前半部にあるという。この和歌では下の句に含まれているので違うかと思ったのだが、お客様が和歌を見て、「上の句と下の句が入れ替えて書かれているかも」とおっしゃり、本文を見くらべてみると、同じように読めるとのこと。この和歌であっているとのこと。
9.上の句と下の句を入れ替えて書かれた経緯については分からないが、作品を作る際に墨のかすれた感じを出したい時に、紙の真ん中から書き始め、墨の薄くなった後半部を書き出しに持ってくる場合もあるとのことで、今回も作者がその効果を狙ったのかもしれない、とお客様の推察。
参考資料:伊藤博 著. 萬葉集釋注 各句人名索引篇. 集英社, 2000.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002887611-00, 4081650136
参考資料:伊藤博 著. 萬葉集釋注 原文篇. 集英社, 2000.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002887610-00, 4081650128
参考資料:沢瀉久孝 著. 万葉集注釈 巻第1. 中央公論社, 1957.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000000971039-00,
照会先:「『書』って一体何なんだ? 書家 柿沼康二」http://www.nikkei.com/news/print-article/?R_FLG=0&bf=0&ng=DGXBZO49152570U2A201C1000000&uah=DF161120129855(2013.3.16確認)
照会先:「吹田市立図書館メールマガジン VOL.43 2009.4.25」http://www.lib.suita.osaka.jp/sdi2/backnumber/090425.html(2013.3.16確認)
備考:お客様が書道教室の先生で、書について詳しかったため、調査にもご協力いただけた。漢文・くずし字など読んでもらえたので探すことができた。
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