調査プロセスと以下の内容を回答
【1】日本建築の工夫や知恵を全般的に把握する資料としては以下の資料が参考になる。
・『宮大工と歩く千年の古寺 』(松浦昭次著;祥伝社 , 2002.12)
・『図解古建築入門 』(太田博太郎監修 ; 西和夫著彰国社 , 1990.11)
・『図解日本建築の構成 』(山田幸一著,彰国社 , 1986.2)
【2】“鳴き竜”“うぐいす張り”の構造、大工の意図(技法)について
①“鳴き竜”に関してはJapanKnowledgeを検索することにより以下のような概要が把握出来る。
・“鳴き竜”はフラッターエコー(flutter echo)現象とも呼ばれる。
・天井の中央部をいくらか持ち上げる建築技法を「むくり」とよぶが、この技法を取り入れることにより
“鳴き竜”現象はいっそう顕著となる。
※また、JapanKnowledgeの“鳴き竜”項目(日本大百科全書)の執筆者が古江嘉弘氏であった
ため、検索キーワードとして“古江嘉弘”の名前での検索も合わせて案内。
(辞典辞書の場合、その項目の執筆者は該当分野の権威が担当することが多いため)
②CiNiiの検索結果から以下の論文などを紹介
・佐藤武夫,石井聖光,平野興彦「日光東照宮の"鳴き竜"復元に関する調査研究」
日本建築学会論文報告集. 号外 No.40(19650900) p. 386
③“鳴き竜”の具体的構造、大工の意図(技法)について。
・大徳寺
『重要文化財大徳寺及び法堂・本堂(仏殿)修理工事報告書』(B521/757)を紹介。
・相国寺
相国寺に関しては『重要文化財相国寺本堂 (法堂)・附玄関廊修理工事報告書』があるが、
当館には所蔵がなかったため、ILLでの利用等を薦める。
・興聖寺
興聖寺に関しては、『重要文化財修理工事報告書』の存在が確認できず。
継続調査とする。
④“うぐいす張り”について(二条城二の丸御殿、知恩院、養源院)
・二条城に関しても『重要文化財二条城修理工事報告書』を所蔵しているが、“うぐいす張り”に該当
する箇所の特定にはいたらなかったことを伝える。
・また知恩院に関する新聞記事、京都府教育委員会の記事を案内。
・また、“うぐいす張り”が人為的な技法とする考えと、建材の経年による摩耗等から生じるとする説の二
つが存在することも案内。
⑤その他
・JapanKnowledge、CiNii等データベースの利用方法を案内。
・また注意点として“鳴き竜”と“鳴き龍”では検索結果に違いが出ることも説明。
回答プロセス:【1】日本建築の工夫や知恵について
<調査戦略>
まずは、神奈川大学OPACにキーワード「日本建築」等を入力して検索し、ヒットした資料の内容をブラウジング
してみる。
<調査プロセス>
ヒットした資料を確認。以下の資料に「鳴き龍天井」を含め、日本の伝統建築の工夫に関する記述あり。
・『宮大工と歩く千年の古寺 』(松浦昭次著;祥伝社 , 2002.12)
228ページに時宗の西郷寺の例ではあるが、以下のような鳴き龍天井に関する記述もある。
「本堂天井は『鳴き龍天井』になっています(中略)桟を使わずに天井を 張ればいいのです。桟がなければ、
天井板が振動しやすくなりますから、下で手を打って空気に振動を起こしてやれば、天井も共鳴することになる。
太鼓の皮が鳴るのと同じようなものです。」
その他、ブラウジングによって以下の資料も参考になった。
・『図解古建築入門 』(太田博太郎監修 ; 西和夫著彰国社 , 1990.11)
この資料は基礎作りから完成までを詳細な立体図で図解しており、日本の寺社建築工夫や構造がよく分かる
内容となっている。
・『図解日本建築の構成 』(山田幸一著,彰国社 , 1986.2)
【2】“鳴き竜”(大徳寺、相国寺、興聖寺)"うぐいす張り”(二条城、知恩院)の構造について
<調査戦略>
まずは、JapanKnowledge等の辞典辞書類で“鳴き竜”の概要が把握できないか調査。
次に、重要文化財や国宝級の建築物の構造を詳細に把握する専門資料は限られているが、該当建築が補修
対象になっていれば、いわゆる『修理工事報告書』が作成されているはずであり、検索して該当資料の内容をブラ
ウジングする。
<調査プロセス>
①キーワード:修理,工事,報告,寺社名で検索し、『修理工事報告書』の有無を確認する。
・大徳寺
『重要文化財大徳寺及び法堂・本堂(仏殿)修理工事報告書』(B521/757)を参照。
図版4ページに法堂天井画として“鳴き龍”があることから、調査対象の建築物は法堂と断定。報告書第三章
「形式及び規模」第一節「構造形式」14ページを読むと、
「天井は鏡天井貼付画張り、円相内墨画龍狩埜探幽法眼守信筆、裳階入側化粧屋根裏」とある。また、
第六章「調査事項」第二節「技法調査」54ページを参照すると法堂の天井貼付画について以下の記述あり。
「天井には三重の円相内に沿って、ほぼ全身を現す龍を描く単彩色の貼付画が施され、天井板に直接画かれた
ものではない。面積は一八四平方米。天井板は厚一・八寸、巾平均一・五尺檜材が使用され、約三・五寸角
の野縁及び釣木で釣っていた。」
同書64ページ以降に「法堂平面図」「法堂正面図」「法堂側面図」「法堂桁行断面図」 「法堂天井見上図」
が掲載されている。
※ちなみにJapanKnowledgeによれば、鏡天井とは「格縁(ごうぶち)などをもたず、鏡のように平面に板を張って
仕上げた天井。禅宗様建築に多くみられる。」とある。
・相国寺
相国寺に関しては『重要文化財相国寺本堂 (法堂)・附玄関廊修理工事報告書』があるが、神奈川大学には
所蔵なし。NACSIS Webcatで検索すると、24大学の所蔵が確認できる。
・興聖寺
興聖寺に関しては、『重要文化財修理工事報告書』の存在が確認できず。
②“うぐいす張り”について(二条城二の丸御殿、知恩院、養源院)についてもキーワード;修理、工事、報告、寺社
名で検索し、『修理工事報告書』の有無を確認する。
・二条城
『重要文化財二条城修理工事報告書』を所蔵しているが、“うぐいす張り”に直接該当する箇所の 特定には
いたらなかった。
・知恩院
知恩院に関しては『重要文化財知恩院経蔵保存修理工事報告書』と『重要文化財知恩院三門修理工事
報告書』が出版されているが、当館では未所蔵。また、“うぐいす張り”のある御影堂の報告書はない模様。
※下記の読売新聞の記事によれば、今後御影堂の修理が予定されているため、修理終了後には詳細な『修
理工事報告書』が作成されるものと思われる。うぐいす張りの構造に関する研究の進展が待たれる。
③JapanKnowledgeによれば“うぐいす張り”は「床板(ゆかいた)を張る際には、表面から釘(くぎ)打ちすると見苦しい
ので、床板下の根太(ねだ)に目鎹(めかすがい)を取り付けて床板を留めるのが高級な手法である。(中略)当初
から意図して鶯張りとするには、穴の大きさを加減するために試行錯誤を要し、むずかしい」とある。
※2007.06.16読売新聞夕刊の記事に「知恩院のウグイス、声失う『鳴き廊下』修復で」との見出しがあり、寺は
「50年、100年が過ぎれば再び鳴き声が聞こえるようになるはず。それまでご辛抱を」としている。この記述からす
ると、“うぐいす張”を人為的な構造というよりは、経年劣化によるもとのと説明しているように読める。
京都府教育委員会のホームページにも関連記事あり。
URL:http://www.kyoto-be.ne.jp/kyoto-be/ (2013.2.19確認)
※参考:都内で『重要文化財修理工事報告書』を重点的に収集している図書館としては、東京都立中央図書
館がある。4階自然科学室にて約1,200冊所蔵。
参考資料:『宮大工と歩く千年の古寺 』(松浦昭次著;祥伝社 , 2002.12),
参考資料:『図解古建築入門 』(太田博太郎監修 ; 西和夫著彰国社 , 1990.11),
参考資料:『図解日本建築の構成 』(山田幸一著,彰国社 , 1986.2),
参考資料:佐藤武夫,石井聖光,平野興彦「日光東照宮の"鳴き竜"復元に関する調査研究」日本建築学会論文報告集. 号外 No.40(19650900) p. 386,
参考資料:『重要文化財大徳寺及び法堂・本堂(仏殿)修理工事報告書』,
参考資料:『重要文化財相国寺本堂 (法堂)・附玄関廊修理工事報告書』,
参考資料:『重要文化財相国寺本堂 (法堂)・附玄関廊修理工事報告書』,
参考資料:京都府教育委員会ホームページ(http://www.kyoto-be.ne.jp/kyoto-be/cms/ ),
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