利根川流域で弁才天が漂着したり、川や海から拾い上げられて祀られた寺社は見つからなかったが、他の地域では、宮城県の金華山の弁才天が漂着して祀られたものであることがわかった。宮城県金華山の弁才天について記述のあった資料と回答プロセスを報告した。
宮城県金華山の弁才天に関する資料
『東北民俗資料集 4』(岩崎敏夫編 万葉堂書店 1975)
p141-161「金華山信仰」(奥海登和子)収録
p148(「金崋山の名勝旧蹟」中)「御船沢」の項に弁天が漂着したときの様子4行ほど記述あり。
『修験道の伝承文化』(山岳宗教史研究叢書 16)(五来重編 名著出版 1981)
p72-73「縁起(1)金華山弁才天」に「弁才天尊像は海中より出現した本尊である。」とあり。
『東北霊山と修験道(山岳宗教史研究叢書7)』(月光善弘編 名著出版 1977)
p170-185「金華山信仰の展開」
p173に漂着伝承あり。「長い海岸線を持つ陸前の浜には漂着伝承が多く、現在まで二十八の事例が知られているが、(中略)金華山の弁才天も伝えるところによると、漂着したのは御船沢とも大箱崎ともいわれており、漂着伝承を持っていることは注目される。」
回答プロセス:〈弁才天〉は「弁財天」と表記されることもあるので両方で調査した。
利根川水系の弁才天を調べる
《Google》を〈利根川 & 弁才天〉〈利根川 & 弁財天〉で検索した結果から社のありそうな弁財天をピックアップ。
東谷寺(とうこくじ) 茨城県取手市小文間5458
永源寺 茨城県久慈郡大子町大子1571
八溝山日輪寺 茨城県久慈郡大子町上野宮真名板倉2134
眞城院(しんじょういん) 千葉県成田市高岡163
布施弁財天(紅竜山東海寺) 千葉県柏市
上記を地名事典等で調査するが手がかりは得られず。
『日本歴史地名大系 8 茨城県の地名』(平凡社 1982)
『日本歴史地名大系 12 千葉県の地名』(平凡社 1996)
『角川日本歴史大辞典 8 茨城県』(角川書店 1983)
『角川日本歴史大辞典 12 千葉県』(角川書店 1984)
『茨城県大百科事典』(茨城新聞社編 茨城新聞社 1981)
『千葉大百科事典』(千葉日報社篇 千葉日報社 1982)
利根川について調べる
『利根川荒川事典 自然・歴史・民俗・文化』(利根川文化研究会編 国書刊行会 2004)
p330〈弁財天社〉の項あり。漂着については記述なし。
大利根町の例について記述あり。(参考文献『大利根町史 民俗編』)
〈漂着〉の項はなし。
『利根川事典』(森田保編 新人物往来社 1994)
p242「関東三弁天で知られた東海寺の布施こもりとは」の項あるが、漂着についての記述はなし。
上記参考文献から
『大利根町史 民俗編』(大利根町教育委員会編 大利根町 1999)
p145-147「水にまつわる石神・石碑 1弁財天」の項あるが、漂着した弁財天についての記述はなし。
『埼玉県史』の民俗編を見る
『新編埼玉県史 別編2 民俗2』(埼玉県編 埼玉県 1986)
索引からp9、64、76に〈弁天様〉の記述あるが、漂着に関する記述はなし。
神仏の事典から
『日本の神仏の辞典』(大島建彦〔ほか〕編 大修館書店 2001)
p161〈宇賀神〉「仏教における福の神の一つ。衆生に福徳を授けて、菩提に導くと信じられる。白蛇をまつったもので、弁才天と同じ神とも説かれる。」
p1142〈弁才天・弁天〉の項あり。
『民間信仰辞典』(桜井徳太郎編 東京堂出版 1980)
p259〈弁天様〉の項あり。
『アジア女神大全』(吉田敦彦編著 松村一男編著 青土社 2011)
p60-75「聞得大君と弁才天」
『世界大百科事典 2005年改訂版 31(索引)』(平凡社 2005)
〈弁天〉および〈弁才天〉の項あり。当該巻にあたる。
『世界大百科事典 2005年改訂版 25』(平凡社 2005)
p677-678〈べんざいてん 弁才天〉の項あり。
漂着等についての記述はなし。
「弁才天信仰はもともと仏教とともに伝来したのであるが、日本の市杵島姫命と習合して神社の祭神となり、水神としての神格を備えることから、池や海の水辺にまつられることが多い。特に江の島、琵琶湖の竹生島、安芸厳島にまつる弁才天が、日本三弁天として有名で、これに大阪箕面山(滝安寺)を加えて四弁天ともいう。」とあり。
『弁才天信仰と俗信』(笹間良彦著 雄山閣出版 1991)
p67-107〈日本三弁天・五弁天・六弁天〉の項 漂着についての記述なし。
三弁天 厳島・江の島・竹生島
五弁天 三弁天+金華山・富士山
六弁天 五弁天+天川
p108-198〈各地に祀られる弁才天〉の項 漂流についての記述なし。
六弁天それぞれのの由来を調べるが、金華山以外に漂着した弁才天は見つからなかった。
〈漂着神〉〈漂着物〉から調べる
『講座日本の民俗宗教 3 神観念と民俗』(五来重〔ほか〕編 弘文堂 1979)
「漂着神」(小倉学)
『海の熊野』(谷川健一編 三石学編 森話社 2011)
熊野の漂着神と徐福信仰(三石学) 弁才天・宇賀神の漂着については記述なし。
『新編漂着物事典』(石井忠著 海鳥社 1999)
p158-161「仏像」(「流れ着くもの」中)の項あり。弁才天に関する記述はなし。
『海村生活の研究』(柳田国男著 日本民俗学会 1949)
p324-328「海より流れ寄るもの」の項あり。弁才天についての記述はなし。
『海辺の民俗学』(石井忠著 新潮社 1992)
p106-108に「御神体漂着譚」の項あり。弁才天についての記述はなし。
『民俗民芸双書 90 信仰と民俗』(岩崎美術社 1982)
p6-28「漂着神」の項あり。能登の事例。弁才天についての記述は見つからず。
『漂着物学入門』(平凡社新書)(中西弘樹著 平凡社 1999) 記述なし。
『漂着物の博物誌』(石井忠著 西日本新聞社 1977)
p41-44〈漂着物と信仰〉の節で「オネッコサマ」「寄神(御神体漂着譚)」「海中出現仏」などについて触れているが、弁(財)天に関する記述はなし。
事前調査事項:市町村史等を調べたが、弁才天では確認できなかった。
参考資料:『東北民俗資料集 4』(岩崎敏夫編 万葉堂書店 1975),
参考資料:『修験道の伝承文化』(山岳宗教史研究叢書 16)(五来重編 名著出版 1981),
参考資料:『東北霊山と修験道(山岳宗教史研究叢書7)』(月光善弘編 名著出版 1977),
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