③を紹介した。
回答プロセス:(以下、紙媒体資料については丸数字、その他の情報については丸括弧付き数字を表記する。)
1 自館資料調査
漢字の読みや意味を調べる
①『角川大字源』尾崎雄二郎/ほか著 角川書店 1992
p.1062 滑
・カツ/すべる・なめらか
・「なめらか」「すべる」などの意に用いる。
・中古→ナメラカナリ・ナメラカニス・ナメル、中世→トシ・ナメス・ナメラカ、近世→サトシ・トロ・ナメラカ・ミダルル
p.1735 辷 国字(すべる)
・すべる。滑る。「氷の上を辷る」「座を辷る」「試験に辷る」「口が辷る」「委員を辷る」
・平らに進む、「すべる」の意。
・中古→オシマロバス・マロブ、中世→オシフスル・マルブ、近世→オシマロバス・スベル
②『字通』白川静/著 平凡社 1996
p.178 滑
・カツ(クヮツ)コツ なめらか すべる みだれる
・骨になめらか、つややか、みだれるなどの意がある。
・[名義抄]滑 ナメラカナリ・ナダラカニ・ナメル
[字鏡集]滑 ナメラカナリ・ナダラカナリ・ナヌ(メ)ル・トラケヌ・ミダル・トシ
p.892 辷
・スベル
・国字 なめらかなところを、すべるという意味を示すために、辵(ちゃく)に平面の形である一を加えた。込・辻なども、同じような造字形である。
・すべる、なめらか、うつる、しりぞく、おちる、はずす
・[字鏡集]辷 フシワヅラフ・ヒキダス・マロブ
2 相互貸借資料調査
③『「しんにょう」がついている国字 不思議な字「辷る」不死身な字「込」』西井辰夫/著 幻冬舎メディアコンサルティング 2018
「辷」について、「すべる」の意味や「滑」の意味、古辞書における「辷」や「辷」の字を使った文献、「辷」と「滑」の違いについて記述し、まとめられている。
p.410~まとめ(1)「辷」について
以下、抜粋。
「辷」は「すべる」を漢字表記するために作られた字ではない。
この字の使用が確認できる平安時代後期には主に「まろぶ」と読まれた。
*「たふる(例る)」の訓みもある通り、もともと倒れ、転がり、横たわることを表すべくつくられた字である。
江戸時代には同じ「まろぶ」と読む「転」の使用頻度が高く「まろぶ」「ころぶ」の表記をもっぱら「転」が担うようになったのではないかと考えれられる。それでも「辷」が消滅することはなかった。
*その頃「すべる」という言葉に当てられるものとして広く認知される漢字が日本にはなかったため「辷」に「すべる」の訓みを与えたものと思われる。
以後、「辷」は「すべる」を表記する唯一の字であり「滑」に「すべる」の訓みが正式に認められた後にも、「滑」で表記できない言葉を含め、すべての「すべる」を表記する漢字であった。
*「滑」で表記できない言葉→「そっと静かに移動する」意味の「すべる」。天皇の譲位を表す「すべる」や派生的に生じた「すべる」(赤児が生まれることや受験に失敗することなど)の表記には「滑」を使わないのが通例だった。
江戸末期以後、「辷」「滑」の二つによって漢字表記された。その中で、「滑」が使えず「辷」だけが表記できた分野の消失、二字熟語を作れず他の日本語の動詞と結合して複合動詞を作る力のなさによって、衰退するようになった。そして、戦後当用漢字が「すべる」を表記する漢字に「滑」を採用し「辷」を排除して、その傾向は決定的となった。
3 インターネット調査
(1)「日本製漢字の変遷と形成方法」笹原宏之 『東洋学』第52集(2012年8月) 檀國大學校 東洋學硏究院
https://www.kci.go.kr/kciportal/ci/sereArticleSearch/ciSereArtiView.kci?sereArticleSearchBean.artiId=ART001688100
*PDFのマークからダウンロード可
p.267「~「辷」(まろぶ、後に「すべる」)・・・」
p.273「辷 まろぶ・すべる」
ウェブサイト・データベースは令和6(2024)年1月9日確認
参考資料:西井辰夫 著 , 西井, 辰夫. 「しんにょう」がついている国字 : 不思議な字「辷」不死身な字「込」. 幻冬舎メディアコンサルティング, 2018.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I029055169-00, 9784344915787
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