北一輝については、多くの研究者が様々な視点から多様な考察を発表している。そのため決定版というような資料はない。
読み比べて判断するために、テーマごとに参考になると思われる評伝や研究書を紹介。
北一輝は「国家社会主義者」といわれているが、「国家主義」というよりは「社会主義」に近い思想を持っていた。
そのため天皇についても、「奉じる」のではなく「社会主義革命に天皇をとりこむ(国家を改造するため、天皇の大権を利用する)」と考えていたようである。
①北一輝の「日本改造法案大綱」の内容について
北一輝の「日本改造法案大綱」が当時の国家権力に受け入れられなかった理由として考えられるのは、日本を「改造」するためにクーデターという手段を選んだためではないかと思われる。
小学館『日本大百科全書 17巻』906頁の「日本改造法案大綱」の記述に、
「(日本改造法案大綱は)内容的に、①天皇大権によるクーデターと国家機関の破壊、②新しい統治機構の組織と国会社会主義的政策の提起、③広大な地域を支配する大帝国の建設、の三つの部分に分かれる」とある。
『広辞苑 第5版』によると、クーデターとは
「急激な非合法的手段に訴えて政権を奪うこと」とあり、「日本改造法案大綱」の「日本」を「改造」する手段がクーデターによるものであれば、当時の国家権力に受け入れられないのは当然と思われる。
「日本改造法案大綱」の詳しい内容については、本文が掲載されている図書、解説が掲載されている資料を紹介する。
(1)「北一輝著作集 第二巻」 みすず書房 1959
「日本改造法案大綱」(漢字カタカナ文)とその解説が掲載されている。
(2)「現代日本思想大系 第31 超国家主義」 筑摩書房 1959
「日本改造法案大綱」(漢字カタカナ文)が掲載されている。
(3)「革命家・北一輝」 豊田穣/著 講談社 1991
第三章が『日本改造法案大綱』のタイトルで、内容(一部。全てではない)の解説が101~127頁に掲載されている。
(4)「北一輝と二・二六事件の陰謀」 木村時夫/著 恒文社 1996
「第三の著作『日本改造法案大綱』」として、149~160頁に概要が掲載されている。
田中智学の「国柱会」については、関連する解説書が当館にないため、北一輝の思想と比較することができないが、
『石原莞爾満州国を作った男』(宝島社)102~107頁に掲載されている、石原莞爾の思想に影響を与えた人物として紹介されている田中智学についての文章を読む限り、日蓮の教えに即した日蓮主義をとっている部分は共通するが、仏の理想を実現している日本の天皇を世界の中心に据える、と主張する国柱会に対して、北一輝はあくまで「社会主義国家をつくるために「天皇制」というシステムを利用する」と考えていた点が相違ではないかと思われる。
②学歴、経歴について
『北一輝』 (田中惣五郎/著 未来社 1959)の第一章「人間形成」が詳しい。また、この資料には巻末に年譜がある。(「革命家・北一輝」にも生い立ちと少年時代について記載があるが、田中惣五郎の「北一輝」を参考にしているとのこと)
『評伝北一輝』全5巻 (松本健一/著 岩波書店 2004)の第一巻目「若き北一輝」の内容は、明治38年(「国体論及び純正社会主義」を執筆する直前)までの経歴(伝記ではなく評伝)。
評伝からは次の資料を紹介。
『北一輝』 粂康弘/著 三一書房 1998
『北一輝の研究』 竹山護夫/著 名著刊行会 2005
北一輝が天皇について、どのような考えであったかについては次の資料が参考になる。
『北一輝-国家と進化』 嘉戸一将/著 講談社 2009
第三章「北一輝と革命」第二節「北一輝における天皇」
『北一輝』 粂康弘/著 三一書房 1998
第三章「ある純正社会主義者の逆説」第一節「国家改造論=社会主義革命に天皇をとりこむ」
「天皇崇拝主義」ではなかったと思われる。
三島由紀夫の思想との関連性については、
1936年(二・二六事件発生)当時、三島由紀夫はまだ11歳であるため、三島の思想が北に影響を与えたとは考えにくい。
北の思想が三島に与えた影響については、三島自身が『北一輝論―「日本改造法案大綱」を中心として』という文章で、
「私は、北一輝の思想に影響を受けたこともなければ、北一輝によつて何ものかに目覚めたこともない。ただ、私が興味をもつ昭和史の諸現象の背後にはいつも奇聳(きしょう)な峰のやうに北一輝の支那服を着た??が佇んでゐた」と記述している。(「北一輝論―「日本改造法案大綱」を中心として」は「三島由紀夫全集 35 決定版」(新潮社 2003)に掲載されている)
三島由紀夫に関する研究書で、北一輝の影響について考察されているものには
『三島由紀夫の二・二六事件』 松本健一/著 文藝春秋社 文藝新書 2005
「三島由紀夫と北一輝」 野口武彦/著 福村出版 1985
などがある。
参考資料: 1 日本大百科全書 17 とけ-にほんく 小学館 1987.9 031/NI/17 (1),
参考資料:
2 革命家・北一輝 豊田/穣?著 講談社 1991.12 289.1/KI (1),
参考資料:
3 現代日本思想大系 第31 超国家主義 筑摩書房 1964 081/G/31 (1),
参考資料:
4 北一輝著作集 第2巻 支那革命外史,国家改造案原理大綱,日本改造法案大綱 みすず書房 1959 081.6/KI/2 (1),
参考資料:
5 北一輝と二・二六事件の陰謀 木村/時夫?著 恒文社 1996.2 210.7/KI (1),
参考資料:
6 北一輝の研究 竹山/護夫?著 名著刊行会 2005.1 289.1/KI (2),
参考資料:
7 北一輝 粂/康弘?著 三一書房 1998.9 309.5/KI (2)評伝,
参考資料:
8 北一輝 田中惣五郎∥著 未来社 1959 289.1/KI (2),
参考資料:
9 評伝北一輝 1 若き北一輝 松本/健一?著 岩波書店 2004.1 289.1/KI/1 (2),
参考資料:
10 北一輝-国家と進化 嘉戸/一将?著 講談社 2009.7 289.1/KI (2)天皇観,
参考資料:
11 三島由紀夫と北一輝 野口武彦∥著 福村出版 1985.10 910.268/MI (2)三島由紀夫,
参考資料:
12 三島由紀夫全集 35 評論 三島/由紀夫?著 新潮社 2003.10 918.6/MI/35 (2)三島由紀夫,
参考資料:
13 三島由紀夫の二・二六事件 松本/健一?著 文藝春秋 2005.11 S910.268/MI (2)三島由紀夫,
参考資料:
14 石原莞爾満州国を作った男 宝島社 2007.3 289.1/I (1),
↧