Quantcast
Channel: レファレンス協同データベース
Viewing all articles
Browse latest Browse all 148274

 源氏物語を始め、平安時代の古典では女房や乳母と言われる人々が多く出てきます。その勤め先である宮中あるいは貴族の屋敷では、どのようにしてこれら女房や乳母を集めたのでしょうか。自らの志願もあったでしょうか。今でいえば求人・採用、これらがどのように行われていたのか、女房務めの実態も合わせ知りたく思っております。  また、紫式部や清少納言、古典の有名な女流作家は女房務めをしている人が多いようで、これらの人が女房になった経緯等も合わせて知りたいところです。調べるによい本があればと思います。(大阪府立中央図書館)

$
0
0
 ご質問の、女房の求人・採用についてはっきりは言及されていませんでしたが、その周辺の女房を選ぶ際の条件や事情、人事、生活、等の資料は多く見つかりましたのでご紹介します。  まず『国史大事典』によると、「女房」(第11巻 p.258-259)の項に「宮中をはじめ、院、諸宮、一般の貴族の家などに仕えた女性。部屋を与えられている者。…(中略)…内裏すなわち天皇付きの女房を「上の女房」、中宮付きの女房を「宮の女房」という…(中略)…「上の女房」には、まず、令制の後宮に仕える女官がある。すなわち後宮十二司の女官である。…(中略)…「宮の女房」は、国司たちの女子で学才のある者が多く用いられ、摂関時代の中宮のもとに宮仕し、中宮の実家の父親など(たとえば、一条天皇の父藤原道長など)が、これを撰び、中宮の教育などにあたる場合が多い。紫式部、清少納言、和泉式部などがその代表的なものである…(中略)…」とあります。  「乳母(うば)」(第2巻 p.146)の項に、平安以前の事と思われますが、「…皇子・皇女のために、乳部(みぶ)と記した部民があり、のちに壬生部という名になるが、これも乳母を供する部民であったとみられる。…律令制度では、「凡親王及子者皆給乳母」と、その人数を定め、選考範囲を規定した条文もあった。」と記述があります。「平安時代以来、宮廷に乳母として入ると、典侍(ないしのすけ)となるという慣行もできた。…」とあります。  「女房」の項の参考文献に挙がっている『平安朝の生活と文学(ちくま学芸文庫)』(池田亀鑑/著 筑摩書房 2012.1)の第五章 「宮仕えの動機」(p.61-62)には、「『才女の後宮憧憬』 一条天皇の御代においては、後宮にお二方が並び立たれ、双方に才女が集められました。才女はいかなる方法によって選ばれ、また集められたか、今日ではよくわかりませんが、おそらく多くの場合は、宮のほうから、適当な人を、尋ね求められたのでしょう。普通の官吏のように、自己推薦をしたり、採用されるように運動したりするようなことは、下臈ならいざ知らず、才女ともいわれるかぎりの女性たちは、まずしなかったであろうと思われます。…(中略)…『紫式部の後宮奉仕』 たとえば紫式部などは、一条天皇の御乳母(*中世の伝承による)という関係か、または『紫式部日記』に「中務の宮わたりの御ことを御心に入れて、そなたの心よせある人と思して……」とあるように、中務卿具平親王との姻戚関係か、あるいは『源氏物語』の作者という名声かによって、お召しを受けたものではないでしょうか。」とあります。この資料には他にも、後宮の制度、後宮の女性、女性の一生といった章もあります。  同じく挙がっている『日本の後宮』(角田文衛著 学灯社 1973 個人貸出不可)は、古代から明治に至る日本の後宮の歴史をつぶさに概観した資料です。付録には「歴代主要官女表」などもあり、時代に沿って女房の組織や職務、生活など細かく書かれていますので、特に女房になる道筋の項があるわけではありませんが、父や兄などの血縁で召された例が散見されます。参考文献はp.400-401に多数挙がっています。 『近世の朝廷と女官制度』(高橋博/著 吉川弘文館 2009.7) 「近世の禁裏御所の「奥」で働く女官たちは朝廷運営でどのような役割を果たしたのか。最も重要な役職の匂当内侍をはじめ、朝廷儀式における職務、人事などを考察。(内容紹介より)」した資料で、例えば一章の3、15ページには、女官の採用から退職に至るまで、大宮御所の女官松下みちの例が24ページまで細かく記述されています。 『平安朝の乳母達『源氏物語』への階梯』(吉海直人/著 世界思想社 1995.9 中之島所蔵)は乳母について大変詳しい資料です。索引に「乳母選定」の項目があり複数のページが挙がっています。そのうちたとえばp.64-65には、明石の君に光源氏が乳母を選んで明石に下向させる部分の説明があります。  そのほか、参考になるであろうと思われる資料をいくつかご紹介しておきます。 『平安時代後宮及び女司の研究』(須田春子/著 千代田書房 1982.5)【210.3/258】 平安前期を中心に、後宮女司について詳しく研究されています。 『律令制女性史研究』(須田春子/著 千代田書房 1978.5)【367.2/38】 上記の前篇で、奈良時代ですが後宮女司についての資料です。 『日本史に出てくる官職と位階のことがわかる本』( 新人物往来社/編 新人物往来社 2009.10)【322.1/296N】 61から65頁に「紫式部と女官のしくみ」という項があり、短く平安時代の女官についてまとめてあり、参考文献として挙がっているのは、 『平安時代の後宮生活』(横尾豊/著 柏書房 1976)【323/489/#】 で、歴代天皇の順に、そのころの後宮について書いてあります。史料から引用多し。 『律令官僚制の研究』(吉川真司/著 塙書房 1998.2)【322.1/118N】 第一章「律令官僚制と官人社会」第三章「律令国家の女官」では、平安の女官の日常から、女官と女房の関係に触れています。 『王朝文学と官職・位階』 平安文学と隣接諸学 (日向一雅/編 竹林舎 2008.5)【910.23/239N】 Ⅰ「平安時代の官職・位階」の中、39頁から56頁に「平安時代の後宮制度ー后妃・女官の制度と変遷」があり、Ⅱ「文人・作者の官職・位階と文学」には321頁から345頁に「紫式部と清少納言の官職と文学」の項があり、彼女らの官職や序列について考察しています。 『講座源氏物語研究』第2巻 源氏物語とその時代 (伊井春樹/監修 おうふう 2006.12)【913.36/393N/2】 50頁から73頁に「後宮女房」の項があります。 『源氏物語講座』 5 時代と習俗 (今井卓爾[ほか]編集 勉誠社 1991.9)【913.36/31N/5】 源氏物語の時代について様々な論文が載っていますが、なかでも313頁から324頁には「源氏物語の女房と乳母」吉海直人氏の論文があります。 『平安文学の環境』(加納重文/著 和泉書院 2008.5)【910.23/236N】は貸し出し中で未確認ですが、こちらには後宮 第一章 後宮 第二章 女房と女官 第三章 尚侍 第四章 典侍  第五章 内侍 第六章 命婦…という章建てで詳しく平安の後宮に仕える女房の事を記述しているようです。 『女と子どもの王朝史』後宮・儀礼・縁 叢書・文化学の越境 (服藤早苗/編 森話社 2007.4)【210.36/77N 】255頁から260頁には「乳母と御乳人」というコラムがあり、貴族の子どものそばで重要な役割を果たした乳母と御乳人について考察しています。 参考資料:『平安朝の生活と文学(ちくま学芸文庫)』(池田亀鑑/著 筑摩書房 2012.1)(ページ:61-62), 参考資料:『日本の後宮』(角田文衛/著 学灯社 1973)(ページ:400-401), 参考資料:『近世の朝廷と女官制度』(高橋博/著 吉川弘文館 2009.7)(ページ:15-24), 参考資料:『平安朝の乳母達『源氏物語』への階梯』(吉海直人/著 世界思想社 1995.9)(ページ:64-65),

Viewing all articles
Browse latest Browse all 148274

Trending Articles



<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>